5ページ目/全7ページ



   試合は3セットマッチで行った。

   かなりの接戦だったが宍戸が勝利した。 以前の鳳なら、ストレート負けだったかもしれない。

   鳳は試合内容にかなり満足していた。

   それ以上に、鳳は宍戸と思い切り打ち合えた事が嬉しくてたまらなかった。

   試合中、楽しくてずっと笑っていたような気がする。



   宍戸は笑顔で鳳にタオルを差し出すと、頭をポンポン叩いた。

   「お前は強いよ、長太郎。でも何でオレに勝てないかわかるか?」

   「何でですか?」

   「それは、お前よりオレの方が何百倍も強いからさ! 当たり前だろ?」

   しばらく二人で顔を見合わせて笑いあった。


   それから、急に宍戸は真面目な顔でこう言った。

   「お前がたまに調子をくずしてサーブを外すよな。 アレはどうしてか自分でわかるか?」

   「う〜ん、精神的な事かな? ミスしたらどうしよう……と考えてしまうから、ですかね?」

   「まあ〜確かにそうなんだろうけどな。

   長太郎、オレや跡部にあるモノで、お前に無いモノがあるんだけど。教えてやろうか?」

   「え? 何ですか?」

   宍戸は鳳の耳元まで顔をよせると、ゆっくりとこう言った。

   「長太郎、テニスってのはスゲェ〜楽しいんだぜ。お前、もっとテニスを楽しめよ。

   いつもサーブを打つ時、眉間にシワよってるぞ。気づいているか?」

   そして力一杯、鳳の鼻を摘んで引っ張った。

   「アテテ……何すんですか〜!」

   「お前、サーブ打つ時もそういう顔なんだよな。

   もっと楽しい気分で打てば良いんだぜ。 今日みたいに、ずっと笑ってろよ。その方が良い。

   テニスは、心ってヤツがすぐプレイに出ちまうんだよ。

   緊張すれば、するだけ肩に力が入っちまう。 そんな状況で、まともに打てる訳が無いだろ?

   オマケに……。お前、馬鹿みたいにすぐ表情に出るから、敵に球筋を読まれやすいんだよ。

   まあ〜跡部みたいにパフォーマンスに走りすぎってのも問題だけどな。

   アイツは無駄に楽しみすぎだ! アレは厚顔無恥ってタイプだからな。

   お前があんなだったら、すぐに縁を切るけどな……」

   「ひどいな〜宍戸サン。それ、跡部先輩に聞かれたら、殺されますよ」


   (もしかしたら、宍戸サン。それを教えるために、今日ここに俺を呼び出したのかもしれない)

   一緒に部活をしてきた二年間、宍戸にはたくさんの事を教えてもらった。

   今日まで辛い練習に耐えられたのは、宍戸のおかげだと鳳は心から感謝している。

   鳳は背筋を伸ばすと、宍戸に向かって深くお辞儀をした。

   「宍戸先輩、今までご指導ありがとうございました。

   先輩が卒業した後、オレも先輩を見習って頑張ります。

   来年は絶対に全国に行きます! 氷帝が目指すのは、全国優勝だけですから!!」

   鳳の声は澄み切っていて、とても力強かった。


  宍戸はちょっと意地の悪い感じで、鳳にさらに尋ねた。

  「でも、敵は強豪ぞろいだぞ。 本当に勝てるのか? オレたちが今年負けたのに? 

   それとも、お前らはもっと強くなるって事か?」

  「ええ、もっと強くなります。 そしてずっと勝ち続けます! 

   青学も立海大も……俺たち氷帝が必ずぶっ潰します!」

   鳳の言葉に迷いは無かった。 そんな鳳に宍戸は満足そうに言った。

   「フ〜ン、ならオレたちは先輩潰しでもしておくさ。

   お前らが高等部に上がってくるまでに邪魔な先輩らを一掃しといてやる。

   オレたちも、もっと強くなるぜ。 お前ら後輩が手の届かないくらいにな! 

   高等部で待ってるぜ、長太郎! その時にお前の実力をまた試してやる!」

   「はい、宍戸先輩!」

   鳳は必ず来年勝利して、宍戸に報告したいと思った。

   きっと宍戸も約束通り、レギュラーを勝ち取るに違いない。

   (それで、高等部に俺が進学したら、また一緒にダブルスやりましょうね)

   (俺もテニスは大好きですけど……)

   (宍戸サンと一緒にテニスをやる時が一番楽しいんですよ)

   鳳は宍戸の顔を見つめながら、そう密かに思っていた。




                               
           4ページ目へ戻る           6ページ目へ進む



          小説目次へ戻る